悪いニュース。OS X Mountain Lion最終版は前とな~んにも変わってません。ここでは2月に書いたレビューに今までベータ版を使ってきた感想と最終版のインプレッションを加味してみますね。
評価は前と一緒。最新のハードで使うと便利&高速ですが、OS X 10.7 Lionで始まったUIのごちゃごちゃは全く解消されていなくて、単に良さげなもの(iOSから採用した通知センター、より密なCloud連携など)を加えただけ。悪いところは全部そのまま残ってます。
Windows 8 Metroでマイクロソフトにイノベーションの王座を盗られたくないならアップルも今すぐ早急に、この時代遅れな1980年代のUIの遺産とiOSの全画面モード、異質なもの掛け合わせた罰あたりなUIを打破する新ビジョンを打ち出す必要があります。
これではまるでアップルのアイディアが枯渇してしまったかのようですよ。新しいコンセプトを採用した途端、会社に金の卵を産み続けているガチョウが死んでしまうんじゃ...と、それを恐れてアップルが新しいコンセプトの導入に踏み切れていないのだとしたら...。スティーブ・ジョブズは「コンピュータが世界を変える、一度にデスクトップ1台ずつ」と言ったものですが、そんな勇気出ないというのではもっと事態は深刻です。
Mountain LionではFinderもアプリを軸に据えるアプローチも、ジャングル大王だった先代の頃と全く同じです。破ったページや革を配したギミックなインターフェイスが増え、一昔前のグラフィックメタファーと不要な飾りも増えたぐらいですね。まあもちろん便利な嬉しい機能もありますけど、せっかくの良い新機能もダークサイドを併せ持ってたりしますからね。
良い新機能には毒がある
Mountain Lionで僕が良いなと思うのは通知センターです。これはライブで更新されるパネルで、画面右サイドに隠れてます。iOS 5のiPhoneやiPadを使ってる人にはもうわかると思うけど、新規メールやツイッターのDMなんかのアラートが入ると通知が一瞬チラッと画面に出てきて消え、通知パネルに保存されるんですね。通知パネルを開きたい時は2本指でタッチパネルの右端から左にスライドするか、画面右上端の(デザインいまいちな)小さなアイコンをクリックすればOK。OS Xのメニューバーのアイコン行列は長くなる一方ですが、新顔がこのアイコン君です(そう言えば昔Mac OS 8の頃スティーブ・ジョブズがこの延々増えてくアイコンの行列が嫌でしょうがない、散らかってる感じがするから嫌だって言ってましたっけ)。
通知センターは、重要なことをなんでも常時追跡するにはもってこいの方法です。どの通知を受け取りたいかはコントロールパネルで選べるし、アップルのMailアプリで重要な人に星をつけておけば、その人からメールがきた時だけ通知パネルに出てくるようにもできます。この機能はサードパーティーのアプリでも使えるようです。
今回は新たにTwitter専用フィールドも追加になりました。これは嬉しいプレスですね! システム環境設定の「メール/連絡先/カレンダ」でTwitterを設定しとけば通知センターにフィールドが表示されるので、そこでなんでも素早くつぶやけますよ。残念ながらFacebookはこんな風に連動できませんけどね。
サードパーティーのアプリも、この通知専用のプログラミング・インターフェースを活用することができます。但しApp Storeで販売を取り扱ってるアプリに限り...です。まあ、アプリ販売価の30%の取り分とプラットフォーム管理権限をアップルが手放すわけないですもんね。結局アップルのプラットフォーム、アップルのサービスなんだから当然と言われれば当然...でも断れないのわかっててオファーを開発者に提示するマフィアのボスみたいで、なんだかなあと思ってしまいますよ。
これはiCloudも同じです。優れた機能で、今回やっとフル装備になったのはいいのだけど、サードパーティーのアプリはApp Storeで販売してるアプリじゃないとiCloudは使えないんですねー。通知同様、iCloudもみんな使いたがるに決まってると見越してのことだとは思いますが。iCloudは(おおむね)良くできているので。
それどころか今回のiCloudは、OS X 10.8新搭載のアプリ(メッセージ、リマインダ、連絡先、カレンダー、メモ、Game Center)で一番の強みと言ってもいいぐらいですね。
新搭載のアプリそれ自体はiOSのそれと一緒で、あの非常にイマイチなUIメタファーもそのまんま~。いやーなんでアップルのUXデザイナーは未だにリアルの面を模したものじゃないとユーザーはタッチする気にならないって思ってるんでしょね? メモは黄色のリーガルパッド(法律用箋)で、Game Centerは高齢者が大喜びしそうな昔のべガスのカジノ風、リマインダはノート...etc。あれは携帯で使ってもひどかったけど、OS Xで使うと余計に意味不明ですよ、画面触りませんからね。
これは技巧を排しエッセンスだけを残すジョン・アイヴのミニマリスティックなデザインとはまるで正反対。UI開発の王者だった頃アップルが守っていたものにことごとく反しています。元々はあらゆるものを同じ言語で統一し、ユーザーが慣れで直感的に使えるようにするってことだったんですが、iOSでアップルはその流れを逆行して「アプリは現実の小物の真似をしなくてはならない」ってことにしちゃったんですね。
携帯ならまだしも、デスクトップでそれやられても余計にしょうがないし、デザインの言語が分断化すればアップルのデザインも魅力がないものになってしまいます。画面上にガジェットがあれこれ脈絡なく並んでインターフェイスがアプリごとに違う、そんな未来にズルズル突き進んでしまいそうで。
デザインのまずさを別にすれば明るい希望もあります。アプリのデータはiCloudで瞬時に同期できるんです。完璧じゃないけれど(例えばメモ[Notes]で写真はシンクできない)、これはすごく便利で一度使ったら病み付きかも。アップルもやっとこれでグーグルのクラウドに追いつきましたね。使わない開発者はまずいないでしょう。
それどころか今回加わった堅牢なセキュリティ機能「Gatekeeper」もこれでほぼ不要になったと言ってもいいぐらいですよ。アップル曰く、Gatekeeperは悪いアプリからみなさんを守るようデザインされたものなのだとか。つまりMountain Lionではどのアプリもアップル固有のIDを使うか、App Storeを通して販売するかしないとダメなのですね、それが要件。それ以外のアプリを使うのはユーザーの自責で、使おうとするとGatekeeperから警告が出るので、こんな風に守られる(脅かされる)と、大体の初心者はどうしても「ソフトウェアのダウンロードはApp Store」と思っちゃいますよね(今どきApp Storeが一番安全な売り場というわけでもないんですけどね)。要はアップルの開発者の露骨な囲い込み。そうは分かっていても、iCloudがあれだけ素晴らしいと、どのみちApp Storeの外でソフト買う人もいないでしょうね。
iCloudの次に気に入ってるのはAirPlayミラーリングです。これはMacの画面で再生できるものはなんでもApple TVやAirPlay対応のAVレシーバーやプロジェクタに飛ばせる機能ですね。Adobe FlashやMicrosoft Silverlight、DVDディスク、動画再生アプリのコンテンツにも対応してるので、iTunesを経由しなくても動画やTVが楽しめちゃう。こういう壁で囲った庭に穴を開ける機能をアップルが追加したのは正直驚きでした。
それ以外にも改善点・新機能は100以上あるとアップルは言ってます。例えばTwitter共有機能が全アプリに採用され、SafariもChromeのようにアドレスバーに検索キーワード直打ちで検索可能となり、 Spotlightにはプレビューもつきました(結果をスクロールダウンしていくと見れる)。
アップルのアプリはすべて(サードパーティーのアプリも僕が持ってるものはほとんど)全画面表示でも操作できるようになりました。トラックパッド持ってる人はラッキーですね。全画面対応のアプリが少ないから意味ないってLionのレビューの時は書きましたけど、今は全画面に対応してないPhotoshopとか極少数のプロフェッショナル・アプリを除けばフルスクリーンで通せます。
メールやSafariを全画面で使えるのは最高。SafariはChromeより速くて良くなった気がしますよ。特にiPadやiPhone持ってる人はタブをクラウドで共有できるので格段に便利。片方に仕事用のタブ、もう片方に遊び用のタブ開いて、さらにスワイプするだけでReeder全表示のフレームが開けちゃう。ペラペラめくってどこにでも素早く移動できるんですね。記事執筆・動画編集に没頭してる時も通知機能で残りのタスクに繋がっていられるので前より仕事に集中できるようになりました。いやー良くできてます。
まあ、細々したアプリまで全画面は要らないけど(Messagesを全画面モードで読みたい人なんているのかな...)。