超安くできて、しかもレンズ特有のピンぼけもないそうな。日本のカメラ業界は要注意ですね。
カメラと言えば普通は、レンズを透過した光子を感光性の面(フィルムやピクセル)に記録する機械なわけですが、この150年来の常識を揺るがす激震が押し寄せています。
これは、米ベル研究所が発表したレンズレス・カメラ。
中には「compressive sensing(圧縮検知)」という新技が入ってます。
その土台にあるのは、今の光の計測手法はデータのかぶり(重複、冗長)が膨大なので、計測を慎重に厳選して行えば、そんなかぶり抜きで同じデータに最短リーチできるんじゃないか、という発想。
どういう計測を行い、計測値から像をどう再構築するのか、そこの部分を考える技術さえあれば、もっと効率は高めることができるよね、そうだそうだ、というわけで、今いろんなチームがその実現に向け奔走してるのです。例えば先日グラスゴーの科学者が発表した「単一ピクセルで3Dイメージを生成する安価な方法」なんかもこの新発想から生まれたものですね(今のデジカメは可視光線しか拾えないけど、この単一ピクセル検知器だとX線からTeraHertzまで拾えるらしい)。
レンズレス・カメラの構造
その動きを加速しそうなのが、このベル研究所の試作機なのです。Gang Huang氏率いる研究班によると、プロトタイプは基本的に2つのパートから成ります。 ひとつは開き組立部、もうひとつはイメージセンサー。
開き組立部というのは、様々なサイズ・位置で光を通すアパチュアアレーとしての役目を果たす透明なLCDパネルのことです。ここで言うセンサーというのは、通ってきた光の3色を感知できる単一ピクセルのチップです。単一ピクセル=1画素。1画素って書くと結構インパクトありますね。
LCDパネルに並んでるアパチュアは各々個別に開閉し、光を通す・通さないの切り替えが可能。この撮影技法で欠かせない大事なポイントが、このアパチュアの配列をランダムにしてやる、っていうことです。
画像生成の方は単純で、LCDパネルのランダムな配列のアパチュアを通過してきた光をセンサーに記録し、別のランダム配列の光を記録し、また別の...と続けていきます。
いくらランダムでも、同じ風景を別々の位置から撮ってるだけなので共通点は当然あります。ここがポイントで、圧縮検知ではデータを解析してデータ相互の関連性を探し、その関連性を手がかりに画像を再現するのですね。
もちろん沢山撮れば撮るほど画質は上がりますが、従来の撮影で必要なデータ量のほんの一部でも、かなりいい画像が撮れるみたい。例えばこれはベル研究所が撮った本の写真ですが...
記録キャパの4分の1でも、これだけ撮れるのです。
この撮影処理は今の撮影の標準より時間がかかるのが難点(1回ではなく何千回もシャッターを切るのに匹敵する作業量なので)ですが、材料・部品の面では信じられないほどコストがかかりません。ベル研究所の試作機も普通に店頭で売ってる材料組み立ててできちゃったようですよ? すごいですね。光学系がついてなくて、センサーにピクセル(画素)がほとんどないんだから、安くて当然と言えば、そうだけど。
問題は画像の質、カメラの性能で、それを標準まで持ち上げるにはまだまだかかりそう。でも、ドッカリ構えてたら地上からレンズが消えて廃業...なーんてことにならないように、しっかり技術の行方を見守ってゆきたいですね。
[arxiv.org via Technology Review]
satomi(MARIO AGUILAR/米版)